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z082 (08月15日) 食品を使う慣用句(4)


eat humble pie  「平謝りする;屈辱に耐える」


直訳: 粗末なパイを食べる
例文: The parents could do nothing but eat humble pie when their spoiled child committed a serious crime.
両親は甘やかして育てた子供が重大な犯罪を犯したときただ平謝りするしかなかった。






60年代の終わり, イギリスに Humble Pie というロック・バンドがいました。 当時, 洋楽に関心があった私は, 気になる曲名, バンド名, レコード会社名を片っ端から辞書で調べていたので, この奇妙な慣用句の意味も中学生で知ることになりました。  ついでに彼らの所属レーベルが Immediate Records という, こちらもヘナチョコな名前だったので辞書で引いて中学生にして immediate の意味も知ることになりました。 


Immediate Records という名のいわれは, 単純に, いいバンドがいたら即,契約して,即, レコードをリリースするという即戦力重視のポリシーからつけたというだけのことだそうです。 そして Humble Pie というバンド名のいわれは― さあ。。。 が, humble pie という慣用句のいわれは慣用句の解説を見れば即, わかります。


Humble pie は鹿の腎臓, 腸, 肝臓, 心臓などのモツを煮て, リンゴやカレントなどの果物とナツメグ, クローブなどの香辛料, それに塩と砂糖で味付けして動物の脂肪を加えて混ぜ合わせて作るパイで, 上流階級の人間など口にしない料理だったようです。
イメージ検索を見ると, 食べ物の humble pie の写真がわずかに見えます。 多くは上記のイギリスのバンドの写真。 ひょっとしたら CBSの名物アンカーマン Dan Rather の顔写真も見えるかもしれません。


Humble pie の humble は「身分の低い, 粗末な, 謙虚な」という意味の形容詞とは本来関係がなく, もとは「モツ肉」を意味する umble という語が訛って帯気音を帯びた結果 humble になった一種の言葉遊びです。


なお アメリカ英語で eat crow  「カラスを食う」というと「恥を忍んで間違いを認める」という慣用句になり, こちらもカラスのような鳥の肉を食うというのは屈辱的であるということから生まれました。





他のヨーロッパ諸語の「屈辱的なことをする」を意味する慣用句も興味深いものがあります。


フランス語  baire baiser le babouin 「ヒヒにキスをする」
フランス語 baiser le cul de la vieille 「老女の尻にキスをする」
イタリア語 andare a Canossa  「カノッサへ行く」 (注※)
スペイン語 morder el polvo  「塵を噛む」
ドイツ語  kleine Brötchen backen 「小さなロールパンを焼く」 (注※)
ドイツ語 zu Kreuze kriechen  「十字架まで這って行く」(注※)
オランダ語  zoete broodjes bakken  「甘いコッペパンを焼く」(注※)
デンマーク語 krybe til korset 「十字架まで這って行く」(注※)


(注※)
イタリア語のカノッサはイタリア半島の付け根, 現在のエミリア・ロマーニャ州レッジョ・エミーリア県にある町。 1077年神聖ローマ帝国皇帝ハインリヒ4世が, ローマ教皇グレゴリウス7世に破門の許しを乞うた, いわゆる『カノッサの屈辱』の舞台。
ドイツ語デンマーク語の「十字架まで這って行く」もこの『カノッサの屈辱』を意味すると思われます。
ドイツ語オランダ語は似た慣用句ですが, ドイツ語の Brötchen (イメージ検索)と オランダ語の broodjes (イメージ検索)は画像を見てわかる通り, 前者はロールパン, 後者はコッペパンのようです。