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z025 (06月19日)  「豆」を使う慣用句


英語の「豆」は, 「エンドウマメ」は pea,  それ以外のマメは bean と大雑把にわけています。 そして忘れていけない「南京豆(ピーナッツ)」。 こちらはマメ科の植物なのに言葉上は peanut とナッツ扱いになっています。


peanut は他のゲルマン諸語は「地面のナッツ」という意味の語(ドイツ語 Erdnuß,オランダ語 aardnoot, デンマーク語 jornød, スウェーデン語 jornöd)で表しています。 イギリス英語でもこれらと同じ発想の earthnut とか groundnut という言葉も使っているようです。
他にイギリス英語には monkeynut 「サルのナッツ」という言い方もあり, こちらはフリージア語の apenút と同じです。
ついでにピーナッツをアルバニア語では kikirik セルボクロアチア語では kikiriki と言い, これはギリシャ語またはイタリア語の「コケコッコー」とほぼ同じです。 (前者は kikikiri は chicckiriki 。 なおセルボクロアチア語の「コケコッコー」は kukuriky) おそらくニワトリが落花生をついばんでエサにしていたからなのでしょう。 所変われば言葉も変わる。 言葉を比較するとこういう発見があっておもしろいものです。 



英語の慣用句では pea や peanut はあまり使われません。 pea は as like as two peas 「2つのエンドウマメのようによく似ている」 peanut は get peanuts for 〜「〜に対してスズメの涙ほどの金をもらう」 程度しかありません。


一方 bean の方は興味深い慣用句がいくつかあります。





spill the beans  「秘密をうっかりもらす」


直訳: 「豆をこぼす」
例文: I played possum and listened attentively to their conversation.
    私はタヌキ寝入りをして彼らの会話に聞き耳を立てた。


ランダムハウスのサイトによると文献初出は1919年アメリカ。  T. K. Holmes の Man from Tall Timber という小説で 'Mother certainly has spilled the beans!' thought Stafford in vast amusement 「『きっとお袋が秘密をうっかり漏らしたんだ』 えらく愉快な気になりながらスタッフォードはそう思った。」という一文に見られます。


上記のサイトによると 1574年の OED に「暴露する, ばらす(divulge, let out)」という意味で  spill it が収録されていたが, やがてこの表現は使われなくなっただろうと言うことです。


spill + it の代わりにいろいろな名詞とのコロケーションがあったが, 結局なぜ bean との組み合わせになったのかは不明のようです。 





I don't know beans.  「まったくわからない」



直訳: 「私は豆を知らない」
例文: Where has your money gone?  I don't know beans.
      どこに君の金は行ってしまったかって。 そんなの知るわけない。


あるアメリカ人のサイト上にはこの語源を How many blue beans does it take to make seven white beans? 「7つ白い豆を作るには青い豆が幾つ必要か。」というなぞなぞから来たとしています。 この答えがわからないと You don't know beans. と言われたから ―というのがそのサイトの説です(おそらく何かの情報源からの記述でサイト管理者の考えではないと思われます。) 
(ちなみになぞなぞの答えは Seven blue makes seven white, because when you peel seven blue you get seven white. 「7つの青い豆。 なぜなら7つの青い豆をむけばいいから。」)


これはいわゆる popular etymology とか fake etymology とか言われる, 民間に伝わる語源に関するおもしろおかしい作り話でしょう。 


世界の言語にはわからないことを強調するために突拍子もないものを添える例が見られます。
イタリア語 Non ho capito un fico secco. 「乾燥イチジクを知らない」
チェコ語 Tomu ja houby rozumim 「キノコを知らない」
ドイツ語 Ich verstehe nur Bahnhof. 「駅しかしらない」
イタリア語の fico (イチジク) や チェコ語の houby(きのこ) は「くだらないもの」という意味もあり(チェコ語で「ちぇっ!」という間投詞は Houby! 言うようです)これを使って知らないことを強めています。 


英語の beans もまったく同じで「くだらないもの」という意味があり否定文で副詞のように not at all の替わりに使うことがあります。  これは bean がありふれたもので価値がない― という発想なのではないかと思われます。


ドイツ語の Bahnhof はちょっと事情が違います。 これは第一次世界大戦が終わったとき, 頭の中は家に帰ることしかなかった兵士が, 何を聞かれても「駅しか知らん」と言ったことから生まれたそうです。 





be full of beans  「元気いっぱいだ; (米)間違っている」


直訳: 「豆でいっぱいだ」
例文: Though my grandmother is over eighty, he is full of beans.
       私の祖母は80歳を超えているが元気一杯だ。


この表現の主語は馬草(fodder)で, 馬草が豆でいっぱい(The fodder is full of beans) なら, そのような馬草を食べた馬は元気いっぱいになる ― という連想が起源です。






know how many beans make five 「世事に抜かりない」


直訳: 「いくつ豆があれば5つになるか知っている」
例文: He knows how many beans make five.  He never forgets to flatter his boss.
 彼は世事に抜かりない。 上司に媚びを売ることを忘れることはない。


これは上記の I don't know beans で触れたなぞなぞの元になったと思われる慣用句。 17世紀中ごろには存在したようで, 『ジャックと豆の木』の中の,市場に牛を売りに行ったジャックが牛の代金の代わりに豆をもらうシーンでも使われています。


He hadn't gone far when he met a funny-looking old man, who said to him, "Good morning, Jack."
"Good morning to you," said Jack, and wondered how he knew his name.
"Well, Jack, and where are you off to?" said the man.
"I'm going to market to sell our cow there."
"Oh, you look the proper sort of chap to sell cows," said the man. "I wonder if you know how many beans make five."
"Two in each hand and one in your mouth," says Jack, as sharp as a needle.
ジャックはさほど遠くまで行かないうちにおもしろい身なりの老人に会いました。 老人は言いました。 「おはよう,ジャック。」
「おはようございます。」ジャックはどうして自分の名前を知っているのだろうと思いながらも挨拶しました。
「さてジャック。 どこへ行くところかね。」 男は言いました。
「我が家の牛を売りに市場に行くところです。」
「ああ, お前は牛を売るのにぴったりの男のように見える。」 男はいいました。 「いくつ豆があれば5つになるかわかるかなあ。」
「片手に2つずつ, そして口に一つ。」 えらく頭の回転のいいジャックは言いました。


ジャックと豆の木の場合は, 頭がいいという誉め言葉のように聞こえますが少なくとも現代の慣用句では「抜け目がない」というマイナスのニュアンスがあります。