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z016 (06月10日) carry coals to Newcastle 「無駄なことをする」


直訳は「ニューキャッスルに石炭を運ぶ」。 (文献初出 1538年)
例文: You gave e-mail to tell her how to go to Kujukuri?   Didn't you know she's from there?  It's just like carrying coals to Newcastle.
          お前,彼女にどうやって九十九里に行ったらいいかメールで教えたんだって? あそこが彼女の地元だって知らなかったの? 無駄なことしたね。


ニューキャッスルはイングランド北東部にある港町。 近郊に炭田があり石炭の積み出し港として栄えました。 ニューキャッスルの歴史を書いたサイト(記述は英語)によるとロンドンへの積み出しは少なくとも1305年から始まり, 1334年までにはロンドン, ブリストル, ヨークに次いでイングランドで4番目に豊かな都市になったということです。 1378年の石炭の扱い高は15,000トン。 ロンドンはもとよりヨーロッパ各地へ運ばれさらにスゥエーデンからは鉄鉱石が輸入されたようです。
 

このようなイギリスを代表する石炭の積み出し港であったニューキャッスルなので, 石炭は余るほどあったはず。 そんな町に石炭を持って行っても誰も買ってくれないから無駄な行為だ― というのがこの慣用句の意図することです。





これと同じ意味の慣用句は他のヨーロッパの諸語にあります。
というよりルーツは古代ギリシャ時代のギリシャの喜劇作家アリストファネス(紀元前448?-380?)の『鳥』にある glauk Athenake 「アテネへフクロウ」, または古代ローマ時代のギリシャの作家ルキアノス(120-180)の著作『ニグリノス』にある glauk eis Athenas  「アテネへフクロウを」であると言われています。 これをイングランドの上記の事情に合わせて英語化したのが carry coals to Newcastle であると考えられています。
アリストファネスの『鳥』の英語訳がhttp://classics.mit.edu/Aristophanes/birds.htmlにあり
EPOPS : Here comes the owl.
EUELPIDES : And who is it brings an owl to Athens?
というセリフが見えます。


アテネは知恵の女神ミネルヴァに捧げられた町で(アテネの名の起こりはここをクリック), ミネルヴァの象徴でもあり知恵の象徴でもあるフクロウが神聖視されて町の至るところにいたため, そのようなところにフクロウを持って行っても無駄になる― というのが「アテネへフクロウ」の持つ意味です。


これがラテン語 Noctuas Athenas portare 「フクロウをアテネに持って行く」と訳され, そのままイタリア語の portare nottole ad Atene やドイツ語 Eulen nach Athen tragen になりました。


ドイツ語には他に Holz nach dem Wald tragen 「木を森に運ぶ」 という表現もあり, こちらはポーランド語 Drzewo do lasu wozic やチェコ語 nosit dríví do lesa として訳されています。 (ともに正しい表記ではありません。)


イタリア語の方も別の表現があります。 1つは portar vasi a Samo 「サーモス島に壷を運ぶ」。 サーモス島はギリシャの東部, トルコ国境の島で(イメージ検索には地図もあります) 壷作りが盛んだったことから生まれたのがこの慣用句です。


これと似ているのがロシア語の В Тулу со своим самоваром 「ツラにサモワールを運ぶ」。 ツラ(イメージ検索)はモスクワ南部の都市でサモワール(英語 samovar)はお茶用の湯沸し器(イメージ検索)。 ツラはこの産地であることに因む慣用句です。


イタリア語にはまた別の表現があります。 portare acqua al mare 「水を海に持って行く」というのがそれです。 
これと同じく「水」に因んだ carry coals to Newcastle は多く存在します。 
オランダ語 water naar de zee dragen  「水を海に運ぶ」
フランス語 porter de l’eau à la rivière  「水を川に運ぶ」
フランス語 porter de l’eau au moulin  「水を水車に運ぶ」
スペイン語 echar agua al mar  「水を海に注ぐ」
スゥエーデン語 gå över ån efter vatten  「水を求めて小川を越えて行く」
ノルウェー語 ga over bekken etter vann 「水を求めて小川を越えて行く」
ハンガリー語 Dunába vizet hord  「ドナウ川に水を運ぶ」
水が絡みますがフィンランド語はちょっと発想が違います。
mennä merta edemmäksi kalaan  「海に魚を取り除きに行く」


他にこのような表現もあります。
スペイン語 vender miel al colmenero. 「蜜を蜜屋に持って行く」
ポルトガル語 vender mel ao colmeiro. 「蜜を蜜屋に持って行く」
デンマーク語 sælge sand til Sahara 「砂をサハラ砂漠に売る」
フランス語 vendre des coquilles à ceux qui viennent de Saint-Michel 「サンミッシェルから来る人に貝殻を売る」
最後のフランス語のサンミッシェルはフランス・ノルマンディ地方の観光地。 英仏海峡の沖の小島に立つモン・サン・ミッシェルと呼ばれる寺院は世界的に有名。 (イメージ検索) この海辺の観光地に貝殻細工を売っても売れはしない― というわけです。


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