島のお巡りさんの1日 〜 島民初の執筆による本 Rockhopper Copper (直訳:イワトビペンギンのお巡りさん) の紹介

















Rockhopper Copper
(Conrad Glass)
Orphans Press, 2005
ISBN 1903360102
20.5x15; 171ページ
この本を購入するには南大西洋の島嶼関係の専門店 Miles Apart に注文するとよいでしょう。
2006年5月現在, 13ポンドと郵送料1.3ポンドの計14.3ポンド(約3,000円)します。 
なお初めての注文は国際郵便為替を使わないといけないらしく手数料だけで郵便局に対してさらに2,500円払わないといけません。


早朝, エジンバラ号がケープタウンから来航して入国管理的な仕事をする。


9時に農業部からニワトリ数羽が犬に襲われたという通報がある。 捜査の最中に牛を追っている犬を見かけたので飼い主に口頭で注意。 しかしニワトリを襲った犬は, 察しは付きつつも証拠がないため特定できず事件について島民に公告するに留める。


昼食後, 車で島内をパトロール。 無謀運転をしている2,3の車に交通違反をしていることを話す。


2時に学校で生徒たちを前に交通安全についての話をする。 夜間に自転車のライトを付けないと交通違反だと話すと生徒の中にしまったという顔をするものがいた。
学校からの帰りスーパーに寄り, 生徒が買いに来るかもしれないので自転車のライトを用意しておくように言う。


警察署に戻る。 レポートをまとめ, イギリスのハートフォードシャ警察の同僚に e-mail で交通安全についてのリーフレットを送るように頼む。


4時半に任務を終了。  義理の妹であり同僚でもあるロレーヌ・レペットといっしょに組織したユース・グループという9歳から15歳までの子供たちのクラブの週に一度の集まりに向かう。
ロレーヌともう1人の女性警察官と3人で子供たちをランド・ローバに乗せて海岸でバーベキュ(トリスタンではアフリカーンス語のローストやグリルを意味する braai というようです)。 その後キャンプファイヤを焚き, ダンスや歌を歌う。 最後にトリスタンに伝わる怪談話を披露する。
夜9時半, 子供たちを再びランド・ローバに乗せて家路に向かう。 来週のクラブは何をするか聞かれとっさに釣りに行こうというと男子たちが歓声の声を上げる。 しかし女子からクレームが来た。


              


今までに世に出たトリスタン・ダ・クーニャに関する本は, 島外からの訪問者による見聞録か, 島に行ったことのない人間が資料に基づいて書く歴史物(客観的に書くか想像力を使って物語風にするかの違いはあります。)か, 島を舞台にしたフィクションかのどれかで, 島民自身の筆による本は Tristan da Cunha Big Book という「電話番号と住所のない町内会名簿」と「7家族の系譜」がいっしょになったようなリング・バインダーの体裁の記録以外はありませんでした。


しかし2005年になって初めて, 島民の筆による本がでました。  トリスタン・ダ・クーニャの代表的な動物イワトビペンギン(Rockhopper)と警察官(copper)をかけた Rockhopper Copper 『イワトビペンギンのお巡りさん』というタイトルの本がそれです。  著者は島の警部補コンラッド・グラス氏。 上記はこの本の『1日の仕事の全て』を要約したものです。 


氏の経歴を本書と前述の Tristan da Cunha Big Book という「島の個人情報筒抜けの本」で調べてまとめると, 
生まれは1961年1月20日。 4つ年上の奥さんシャーロンさんとの間にレオン君(1982年生まれ)がいる3人家族。 1986年にセント・ヘレナで警察官になり1987年にトリスタンに帰島してパートタイムの警察官に。 1992年にロンドン北部のハートフォードシャー州で警察官養成を受け1993年に帰島し巡査部長に。 1998年に警部補に昇進し年の暮れに再びハートフォードシャー州に行き12週間の研修を受け1999年6月帰島― 
この経歴から見ると小さな島の国際派の警察官という感じです。


コンラッドさんはトリスタン・ダ・クーニャの建国者ウィリアム・グラスの子孫でもあります。 これまた前述の Tristan da Cunha Big Book で調べるとウィリアム・グラスの16人いた子供のうちの1828年生まれの四男トーマスに行き当たります。 以下, ロバート・フランクリン・グラス(1871年生まれ), ジョージ・アレン・グラス(1871年生まれ), エドウィン・グラス(1928年生まれ)と続きます。 つまりウィリアム・グラスはコンラッドさんにとって曾曾曾じいさんとなるようです。


なおトリスタン・ダ・クーニャの国旗にある Our faith is our strength (我々の信念は我々の力だ)はコンラッドさんがトリスタンの歴史の本を読んで思いついた言葉だそうで, これが採用されたと書かれています。


            


もくじは以下の通り
  • 序文
  • 謝辞
  • トリスタン・ダ・クーニャの簡単な歴史
  • 私の家族の目を通して見た1961年の爆発
  • 1日の仕事の全て
  • ジャガイモ畑のある土曜日
  • 自然保護の仕事とペンギンの警備
  • 山での羊番の日
  • トリスタン島に引き揚げられたヨットに関する報告〜3つの捜索救助活動
  • ゴフ島での遭難救助活動
  • 観光と入国
  • クルーズ船の見学
  • ナイチンゲール島へのロングボート漕ぎ
  • カントン号のナイチンゲール島への最後の航海
  • トリスタンの伝説 〜怪談話を中心に9話
  • 2001年のハリケーン
  • 個人的な雑記
他に切手と工芸品の販売案内(ただし写真などなし)と付録として入国規定書が掲載されています。


また以下の26枚のカラー写真が16ページにわたって掲載されています。
『世界で一番遠い島』と書かれた看板 / ウィリアム・グラスの人生というタイトルの記念切手シート / ウィリアム・グラスの墓碑 / 首都エジンバラの海上上空からの遠景写真 / 首都エジンバラの1961年にできた火山からの遠景写真 / じゃがいも畑で働く島民 / 港の入荷風景 / ロブスター工場で働く元郵便局長アラン・スエイン / イワトビペンギンのヒナ / イワトビペンギンの群れ / ナイチンゲール島のあざらし / 岩場にいるイワトビペンギン / 警察の車の前でポーズを取る著者と同僚(女性) / クルーズ船ブレーメン号で入国管理の担当官の記念写真 / イナクセッシブル島に上陸した初のクルーズ船の乗客たち / ナイチンゲール島でアホウドリの写真を撮るクルーズ船の乗客たち / イナクセッシブル島に上陸するクルーズ船の乗客の補助をした著者の息子のレオンの記念スナップ / 島民によるヨットレース2枚 / カントン号 / ナイチンゲール島でロングボートの陸揚げ風景/ハリケーンの被害状況2枚 / 著者の両親と牛車 / トリスタン島から見るイナクセッシブル島 / ゴフ島での筆者と南アフリカ気象チームの医者の記念写真


        


上の目次からもわかるようにコンラッド氏は, 船の来航の際は入国管理の仕事もするし, 遭難船や島での遭難者があれば島民一体でする捜索救助活動を仕切ります。 さらに自然保護への取り組みもしていてペンギンの個体数を記録もこの本にはあります。 ただの村の駐在さんというわけではなさそうです。 一見のんきそうですが, 人口が少ない閉鎖された社会のための労もあると書いています。 法に厳しくし過ぎても緩く対応しても批判されますし, 煙たい存在でもあるため家族が村八分のような扱いをされることもあるようです。


この本は島の住民でなければわからないことが警察官らしい律儀で細かい記述で書かれており,今まであったどの「トリスタン本」よりも生き生き, また生々しく島の様子を伝えてくれます。 雑記には外来者のトリスタン島の住民への偏見があったこと, それが「トリスタン本」にも反映していたことなどの書かれており, もっぱらこの手の情報に頼っていた私には衝撃的な部分もありました。 これからも島民自らが執筆した本が出て来るとよいのですが。


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