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z16    Hold On I'm Coming  (Sam & Dave)
 ホールド・オン  (サム&デイブ)   
1966
vs
 Hold On   (Ian Gomm)
 ホールド・オン   (イアン・ゴム)
1979
サム&デイブ    原詞・訳詞     
イアン・ゴム   原詞・訳詞
『ホールド・オン』と聞いてだれの歌を思い出す? と尋ねられ「サム&デイブ」と答えたら, 「う〜ん, ひょっとして50代? 」って言われてしまうかも。 ここはせめて「イアン・ゴム」と答えましょう。 そうすりゃ10歳以上は若く見られます(?)。
いや, この際だから無理してアン・ヴォーグ(1990)とかアン・ネズビー(1997)とか答えるのも手です。  私はこれらがどんな曲なのか皆目見当もつきませんが。



同名異曲は珍しいことではありません。 歌詞を検索して見ると意外なほどたくさんの同名曲にぶつかります。  でもそれは原題の場合の話で邦題となると珍しいのではないかと思います。 
今回のケースは原題は別々のタイトルなのに邦題が同名になってしまったというケース。 これはサム&デイブの方の原題の一部(I'm Coming )を端折って邦題にしたためです。 


           


さて原題を端折られてしまったサム&デイブのプロフィールです。
サムこと Sam Moore は1935年マイアミ生まれ。 デイブこと  Dave Prater Jr は 1937年ジョージア州オシラ生まれ。 ともに小さいときから教会の聖歌隊に所属し, 多くの歌手がそうであるようにクラブで下積み生活を送っていました。 この二人が出会ったのは1961年マイアミのキング・オブ・ハーツ・クラブでのこと。 
その日, このクラブでアマチュアのコンテストがあり, サムはホスト役をしていました。 デイブはジャッキー・ウィルソンの Doggin' Around を歌って出場。 しかし頭の中が白くなってしまったのか彼は途中で歌詞を忘れてしまいます。 それをサムがフォローしてあげたのが知り合ったきっかけ。 サムが26歳, デイブが24歳。 若い二人はその日のうちに意気投合しデュオを組んだのでした。


デュオを組んでからはまもなく地元マイアミで人気が出ていくつかのレコード会社を渡り歩いた末, 64年にアトランティックと契約。 プロデュースはメンフィスにあるアトランティックの系列レーベル, スタックスからということになりました。
ホーランド=ドジャー=ホーランドのモータウンに対し, スタックスにはアイザック・ヘイズ(後に『黒いジャガーのテーマ』の大ヒットを自ら出します)とデビッド・ポーターという看板ライター/プロデューサがいました。 サム&デイブも彼らの作品である『ホールド・オン(Hold On I'm Coming)』や『ソウル・マン(I'm A Soul Man)』を独特の荒削りな汗臭い唱法とステージ・パフォーマンスで歌いでヒットを飛ばします。


しかし68年, スタックスの配給をめぐってアトランティックと争いが起きると, もともとアトランティックとの契約しながらスタックスからレコードを出していたサム&デイブは「窓際」へと追いやられ, 仕方なく再びレーベルを変えますがもうヒットは出ません。


ヒットが出ない原因はそれだけではありませんでした。 実はステージの熱いパフォーマンスとは違い, このころ彼らはオフ・ステージでは「互いの顔を見るのもいやな」ほどの不仲になっていたのです。 そして1970年に解散。 


その後もしばしばコンビを再び組みますが長く続きません。 1980年には完全に二人は縁を切り, デイブは別のサム・ダニエルスというの名の男と組み新サム&デイブとしてやって行こうとしますが, 1987年に麻薬の密売をして逮捕され, 翌88年に自動車事故で死亡。 享年53歳でした。  (サムの方も後に70年代からドラッグに手を染めていたことを告白しています。)


サムは現在, いくつかの音楽ドキュメンタリーもののDVD/ビデオで姿を見せています。 2004年春には60年代のR&B全盛期を振りかえるドキュメンタリー Only The Strong Survive が発売される予定のようです。


           


続いてイアン・ゴム。
こちらはサム&デイブと違い, 今でも旬。


1947年3月17日ロンドンの下町チズウイック生まれ。 
60年代終わりにEMIの機械電子工学部の「見習」をしながら音楽家の道を目指します。70年にパブ・ロック・バンド Brinsley Schwarz のギター/ボーカル担当になります。 71年にはイギリスの音楽雑誌ニュー・ミュージック・エキスプレス誌によりベスト・リズムギタリストに選ばれているような通好みのミュージシャンだったようです。
75年に Brinsley Schwarz 解散後, ウエールズ州にスタジオを作り the Stranglers, Amon Duul , Alexis Korner などをプロデュース。 
78年には自らのアルバム Summer Holiday を発表。 翌79年にはアメリカでもデビューをし, この『ホールド・オン』が最高18位になるヒットを飛ばします。. またダイアストレイツとともにツアーもします。
その後 What a Blow や The Village Voice などのアルバムをリリースしながら, 新たにスタジオを作りプロデュースや曲作りに勤しみ, 地味ながら悠悠自適, 今もまだバリバリ現役で活躍中という, ミュージシャンが憧れる生き方をしています。 


太く短くのサム&デイブと細く長くのイアン・ゴム。。 どちらがいいですか?


           


最後は歌詞について。
この二つの『ホールド・オン』, 邦題が同じだけではなく, もう1つ共通点があります。
それは歌詞がいわゆるラブ・ソングでないこと。


意外やサム&デイブの『ホールド・オン』の主題は, 皮肉にも, 友情なのです。 
私はてっきり Hold On I'm Coming というから「ちょっと待って, 俺, 今イクから」と解釈しテンプテーションズの『ゲット・レディ』と同じ H系の歌かとマジに思っていました。


しかし内容はジェームズ・テイラーの『君の友達』と全く同じ。 
「悲しい時は待っていて行くから 僕の名前を呼んで。。 」
ただしこちらは異性の友達に対して呼びかけていると見た方がいいかもしれませんが,ともかく驚くほど『君の友達』的な発想の詞です。


でも気分が沈んだ時, 特に本当の鬱病状態のときは, サム&デイブのように汗と唾が飛ぶように励まされても落ちこむだけ。 こういうときは「長いまつげで伏し目がちにアコースティック・ギターを爪弾く」ジェームズ・テイラーの世界の方が居心地はよさそうな気がしますが。。


           



さて片やイアン・ゴムの『ホールド・オン』。
こちらは強いて言うとニール・ヤングの『孤独の旅路』に似ている内省的な詞をしています。
ただ『孤独の旅路』が優しい心をした人を求めて旅する, いわば社会へ意識が向いている歌詞であるのに対し, 『ホールド・オン』は自分探しを自分の中でする, いわば内側へ意識が向いている歌詞であるのが異なります。
リフの Hold on,  hold on,  hold on to what you've got  は「自分の持っているものは捨てちゃダメ」にこの自分に向く意識がよく表れています。
 (サム&デイブの Hold on は「待つ」 イアン・ゴムの hold on は hold on to 〜の一部で「〜を捨てない, 取っておく」の意味です。)


『孤独の旅路』が若者の外へ意識が向いていたウッドストック世代の歌であるのに対し, 『ホールド・オン』が意識が社会ではなく自分へ向いてしまうポスト・ウッドストック世代の歌である感じが私にはするんです。 そして今の若者なら前者より後者の世界の方がアッピール度は高いかなっと思うし, イアン・ゴムが今の時代でも活躍しているのは, 案外, この辺りの時代感覚の「先取り」にあるのかなとか思ったりしています。