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33   I Say a Little Prayer    (Aretha Franklin)
小さな願い  (アレサ・フランクリン)
1968
原詞・訳詞(1)
■ 以下は最初にこのファイルをウェッブ上に浮かせた2003年1月23日から丸まる3年経った2006年1月に更新した文です。 


先日, 何かの機会にこの歌の歌詞を見たら誤訳に気づきました。 それでもう一度訳し直したついでにストリーミングで詞を表示してみたのがこのファイルです。 そして改めてこの歌の歌詞を考えてみて次の2点を書き加えたいと思います。


一つは I say a little prayer for you. を 「私はあなたに祈りを捧げます」と訳していいかということです。 これですと例えば相手の男性が幸せになってほしいというように「相手のために」祈っているようにとれてしまうのではないかと思います。 


おそらくネイティブは I say a little payer for you.  と出だしのコーラスが聞こえた段階で「あなたのために小さな祈りを捧げます」ととるでしょう。 目覚めたらすぐ, 化粧しながら, バスに乗りながら, コーヒーブレイクの間も好きな人のために小さな祈りを捧げる― なんて健気な女性か!  


しかし聞いているうちに, そうではないことに気づきます。 最後に 「Please love me too / This is my prayer, baby  どうぞあなたも私を愛してくれるますように / これが私の祈りです」と歌っているように, この女性の prayer は「男性のため」の祈りというより, 「男性に対して」自分を愛してほしいという祈願していることがわかります。
 

prayer for の for に注目すると「〜を求める祈り」(prayer for rain =雨乞い)もありえるので I say a little prayer for you を「あなたを求める祈りを捧げます」ととれなくはないですが, for の目的語が人間であることから, そして何よりそのように訳すと一途に片思いの男性を思う女性の哀しいほどの健気さが半減してしまうように思えます。 事実, この女性の祈りは「男性に対して」自分を愛してほしいという控え目な祈りであって「あなたがほしい」という積極的な祈りではありません。


この prayer は「祈願」なのですから「祈願」の「祈り」をとるか「願い」をとるかという違いで訳し方を変えてみることができます。 上にあるのは前者の訳なので, ここで prayer を「願い(ごと)」とした訳を載せておきます。  原詞・訳詞(2)       





           


2つ目に書き添えたいのは, この歌の主人公がオフィスで働く黒人女性であることからの考察です。 歌詞自体からは黒人女性である必然性はありませんが, 歌っているのはアレサ・フランクリンでありディオンヌ・ワーウイックであることからそう言ってもいいと思います。


一昔か二昔前, 黒人であること, そして女性であることが歌になったとすれば, ブルースによくある「ママ」だったでしょう。 それは優しく世話好きな母親かもしれないし怪しい職業の女性を意味したでしょう。 しかしこの歌の女性はバスで通勤しコーヒーブレイクのあるオフィス(役場でもいいですけど)の黒人女性です。 2005年10月にアメリカの公民権運動のきっかけになったアラバマ州のバスボイコットの火付け役ローザ・パークさんが亡くなりましたが, この歌を聞いて彼女のことを思い出してしましました。 もちろん彼女がオフィスラブをしていたということではなく, 公民権運動前のアメリカではこのような歌詞は考えられなかっただろうということです。


ただこの歌がヒットした1968年には公民権運動の指導者のキング牧師が暗殺されていますし, 1967年8月にデトロイトで黒人の暴動が劇化したことも考えると, 1965年に黒人の権利を保障する投票法が成立し, 公民権運動は実ったとは言え, まだ人種問題は残っていました。 その意味から見ると, この歌の「アメリカ文化史」での位置付けを考えるとおもしろいかと思います。


           


■ 以下は最初にこのファイルをウェッブ上に浮かせた2003年1月23日の文のままです。


1960年代後半を代表する作詞作曲家のコンビと言えばバート・バカラックとハル・デビッド。  彼らの主なヒット曲には
  • 遥かな影/カーペンターズ   (Close to You);
  • サン・ホセへの道/ディオンヌ・ワーイック (Do You Know the Way to San Jose? ); 
  • 雨に濡れても/B.J トーマス (Raindrops Keep Fallin' on My Head);
  • ス・ガイ/ハーブ・アルパート (This Guy's in Love With You);
  • ウィッシン・アンド・ホーピン/ダスティ・スプリングフィールド(Wishin' and Hopin') ;
  • 恋よさようなら/ディオンヌ・ワーイック (I'll Never Fall in Love Again ;
  • 恋の面影/セルジオ・メンデスとブラジル'66 (The Look Of Love)
  • ウォーク・オン・バイ/ディオンヌ・ワーイック(Walk on By) ;
  • 世界は愛を求めてる/ ジャッキー・デシャノン(What the World Needs Now is Love)
などたくさんありました。 どれもホテルのディナー・ショウにはうってつけという感じの曲で私はイマイチ苦手ですが, この『小さな願い』 と『世界は愛を求めてる』と並びお気に入りなのです。
『小さな願い』はディオンヌ・ワーイックも歌っていますが, ゴスペル風に女性コーラスと掛け合いのあるアレサ盤の方は, この頃のR&Bらしく, まだ荒削りで力強くて素朴でいいですね。 公民権運動や Black is beautiful というスローガンで代表されるアフロアメリカンの自尊心の高まりと, この頃のR&Bは平行して進んでいったような感じがします。 やがて70年代にアフロアメリカンの社会的な地位も上がり安定してくると, 音楽も洗練されたフィリー・ソウルみたいなのに変わっていたと言えるのではないでしょうか。